✔ 劣化対策等級とは何か
✔ 劣化対策等級取得のための対策
✔ 維持管理対策等級とは何か
✔ 維持管理対策等級取得のための対策
✔ 劣化対策等級・維持管理対策等級の必要性
劣化対策等級
劣化対策等級とは
劣化対策等級とは、建築物の劣化対策やシロアリ対策など、住宅を長持ちさせるための対策の程度を3段階の等級で評価する制度です。
また、劣化対策等級3は「長期優良住宅」の認定を取得するための必須条件の1つとなります。
木造住宅の場合の劣化対策等級の内容は、下記の通りです。
- 劣化対策等級1:建築基準法が定める程度の対策
- 劣化対策等級2:住宅が2世代(50~60年間)以上に渡り、耐久出来る程度の対策
- 劣化対策等級3:住宅が3世代(75~90年間)以上に渡り、耐久出来る程度の対策
等級3の場合、さらに以下の基準について一定の要件を満たすこと
∟外壁の軸組における防腐・防蟻措置
∟土台の防腐・防蟻措置
∟浴室と脱衣室の防水措置
∟地盤の防蟻措置
∟基礎の高さの確保
∟床下の防湿・換気措置
∟小屋裏の換気措置
∟構造部材等の基準法施行令規定への適合
木造住宅の劣化の原因
木造住宅の場合、構造躯体に用いられる木材が腐朽菌によって腐ったり、シロアリに食べられたりして劣化することがあり、この2種類の劣化が主になります。
劣化対策等級の内容を見ると、雨漏りなどによる「水」、基礎から上がってきたり生活の中で発生する「湿気」、どこからかやってくる「シロアリ」による木材の劣化を防ぐことを前提にしているかと思います。
「水」・「湿気」対策
1.水・湿気による木材の被害とは
木材の腐朽(水分による木材の劣化)は、「木材腐朽菌」という微生物によって引き起こされ、繁殖する際に適度な水分を必要とするため、湿度が高い場所の木材に発生しやすいです。
繁殖すればするほど木材は腐り、建物の強度は低下してしまいます。
2.水・湿気の対策
木材腐朽菌が発生・繁殖するためには、栄養(木材)・温度・水分・空気の4つの条件が揃う必要があります。
逆に1つでも条件を欠くと、木材腐朽菌は活性化しませんので、木材を乾燥した状態で保っていれば、腐朽防止に効果的です。
そのためには、床下などの湿気を逃がす換気方法、外壁内や屋根内の湿気を逃すための通気方法、窓などの結露対策などを設計時にしっかり計画し、常に乾燥した状態に保つことが大切です。
また、隠れている配管からの水漏れや雨漏れがないか定期的に点検を行い、不具合が発見された場合は早期に対応を行なうことで、木造住宅の寿命を延ばし続けることも可能です。
一般的に用いられる腐朽対策としては…
- 独立した小屋裏ごとに、換気上有効な位置に2ヵ所以上の換気孔を設け、小屋裏の換気ができるようにする。
- 外壁の床下部分には、壁の長さ4m以下ごとに有効面積300㎠以上の換気孔を設け、床下換気・防湿措置を行う。
- 土台に接する外壁の下端に水切りを設け、基礎の内周部や周囲の地盤に有効な防腐・防蟻措置が講じる。
- 浴室や脱衣室の軸組、床組や浴室の天井には、防水措置を施す。
「シロアリ」対策
1.シロアリ被害とは
シロアリが木造住宅の建材である木材を食べることで、家の耐久性が低下するのがシロアリ被害です。
シロアリは対策が不十分な古い家に出るイメージの方が多いのではないでしょうか?
しかし、環境次第では新築の場合でも、数年以内に被害に遭う事例も多くあります。
シロアリは木材を中から食べ始めるため表面的には被害が見えにくく、発見が遅れやすいという特徴があります。
被害が多い場所は、土台や床束(床を支える柱)・柱などの木材です。
余談ですが、普段見かける黒アリはハチの仲間であるのに対して、シロアリはゴキブリの仲間だそうです。
2.シロアリ被害の実態
平成25年に国土交通省の補助事業として行われた「シロアリ被害実態調査報告書」によれば、築年数ごとで調べたシロアリ被害の確率は以下のようになります。
在来工法 | ||||
築年数 | 全体 | A区分 | B区分 | C区分 |
0~4年 | 1.9% | 0.0% | 1.0% | 100% |
5~9年 | 4.0% | 4.9% | 0.8% | 41.2% |
10~14年 | 11.0% | 6.0% | 3.3% | 80.0% |
15~19年 | 29.3% | 12.9% | 2.3% | 94.9% |
20~24年 | 38.4% | 14.1% | 6.6% | 91.4% |
25~29年 | 37.4% | 18.5% | 0.9% | 90.6% |
A区分:(全体の 50%) 防蟻処理保証切れで、再施工せず、一定期間経過(放置)した物件 2,500 件
B区分:(全体の 25%) 防蟻処理保証期間内の物件(新築予防保証、既存予防保証、駆除保証など)1,250 件
C区分:(全体の 25%)過去6年以内に行った駆除履歴のある物件(追跡調査)1,250件
データ引用:国土交通省|シロアリ被害実態調査報告書
https://www.i-ecoup.com/wp-content/uploads/2015/11/shiroarireport.pdf
築年数別の結果について
- A区分建物では、築 15 年以上経過している場合、被害発生率は急増している。
- B区分建物は被害発生率が当然に低いが、築年数が 10 年以上になると保証期間内の建物でも 4%~6%のシロアリ被害が発生している。
- すでに過去に被害のあるC区分を除いたA・B区分だけを見ても、築20年を超えた木造住宅(A+B=20.7%)では、約5棟に1棟がシロアリの被害にあっているということになる。
3.シロアリ被害の対策
シロアリが木材を好むのは、木の食物繊維の主成分であるセルロースが栄養源のためで、他にもセルロースを含んでいる、家具・畳・段ボール・新聞紙・衣類なども食べます。
さらに、食べはしませんが、蟻道(進入口、通り道)をつくるために断熱材や金属ケーブル、コンクリートの基礎などに穴を開けることもあります。
そのため被害を抑えるには、さまざまな場所への対策が必要になります。
一般的に用いられるシロアリ対策としては…
- 床下は点検しやすい作りに
的確な場所に点検口を設け、さらには床下空間に有効な高さを確保し、容易に点検でき、万が一被害にあった場合でも早期に対応できるようにしておく - 基礎断熱工法は避ける
適切な換気が難しく、基礎部にエサとなる断熱材を使用するため、施工に不安がある場合は避ける
※基礎断熱工法には、断熱・気密が取りやすいなどの様々なメリットもあるため、採用する場合は基礎断熱工法の知識や経験が豊富な建築会社を選びましょう - 侵入経路に対策をしておく
基礎下に防蟻・防湿シートを、基礎の継ぎ目をなくす(基礎一体打ち)または止水プレートを使用する
配管周りなどの隙間には防蟻ウレタンフォームなどを充填
他にも、床下の換気口の前に物を置かないことや、庭先や玄関先などに木材・段ボールなどシロアリのエサとなるものを置かない、など基本的なことも大事です。
特に天然の木で造られたウッドデッキなどはシロアリ被害が多いので注意が必要です。
また、基礎断熱工法で新築する場合、基礎のコンクリートが完全に乾く(水分が抜け切る)までに半年から1年、その土地の湿度によって長ければ2年以上かかる場合もあります。
ですので、新築して最初の1年目は床下空間の湿度が上がりがちなので、定期的なチェックをおすすめします。
しかし、シロアリは「蟻道(ぎどう)」という土のトンネルを作りながら侵入してきます。
蟻道はシロアリが水を運ぶ経路でもあり、中は適度な湿度が保たれています。
つまり、床下が乾燥しているからと油断は禁物で、蟻道を作られてしまったら意味がありません。
また、最近の高気密高断熱の住宅では1年を通して快適な温度環境に保たれており、これはシロアリにとっても快適な環境(ヤマトシロアリは12~30°C、イエシロアリは17〜32°C)であるといわれています。
家の通気を良くしたり、シロアリの生息場所や進入経路になりそうなものを家の周りにつくらないなど、物理的な対策を行っても100%安心とは言えません。
そのため、より万全を期すために、薬剤によるシロアリ予防を行なっていくことも多いです。
劣化対策等級を取得すための基本的な対策
木造住宅で、劣化対策等級3を取得する場合に必要な基準の概要は下記の通りです。
維持管理対策等級
維持管理対策等級とは
維持管理対策等級とは、給排水管や給湯管、ガス管などの維持管理をしやすくするための対策を3段階の等級で評価する制度です。
また、維持管理対策等級3は「長期優良住宅」の認定を取得するための必須条件の1つとなります。
家の建築部材は、構造躯体体、給排水管、水周り配管など、それぞれ耐久年数が違います。
配管は構造躯体に比べて耐用年数が短い傾向にあるので、メンテナンスを容易にする対策は非常に大切です。
どんな項目を満たしていればよいかは、下記の通りです。
- 維持管理対策等級3
掃除口・点検口があるなど、維持管理を容易にするための特に配慮した措置が講じられている。
構造躯体と仕上げ材に影響を及ぼすことなく専用配管の点検及び清掃・修理が行えるもの。 - 維持管理対策等級2
コンクリート内に配管を埋め込まないなど、維持管理を容易にするための基本的な措置が講じられている。
構造躯体に影響を及ぼすことなく専用配管の点検及び清掃・修理が行えるもの。 - 維持管理対策等級1
等級2・3以下の使用
維持管理対策等級を取得するための基準的な対策・等級別の比較
専用配管を維持管理しやすくするための基準的な対策と、これを等級別に比較してみると下記のようになります。
基準的な対策 | 維持管理対策等級3 | 維持管理対策等級2 | 維持管理対策等級1 |
コンクリート内に配管を埋め込まない | 〇 | 〇 | ー |
埋設配管の上にコンクリートを設けない | 〇 | 〇 | ー |
排水管には排除口またはトラップを設ける | 〇 | ー | ー |
点検口を設ける | 〇 | ー | ー |
まとめ:施主目線で思うこと
劣化対策等級・維持管理対策等級を取得するメリットを十分に理解することで、住まいの検討・比較段階、契約時、入居後、売却時に至るまで、さまざまな恩恵を受けることができます。
長期優良住宅の認定を取得する際は、劣化対策等級3・維持管理対策等級3は必須ですので、認定取得していれば何の心配もありませんが、取得をされない方は住宅会社に一度確認することを、おすすめします。
長期優良住宅レベルの住宅性能(特に断熱性能・気密性能)は、まだまだ低いレベルです。
しかし、補助制度を利用できることや、劣化対策等級3・維持管理対策等級3をクリアできることに関しては、長期優良住宅のメリットだと思います。
また、カーボンニュートラルなどの観点から、これからの住宅は自分が住んで終わりではなく、次の世代も住み続けていくことが当たり前の時代になると思います。
住宅を何世代にも渡り維持し快適に暮らすためには、設計段階から適切な構造に配慮し、適切にメンテナンスを行い、きちんと維持管理していくことができるような家づくりが非常に重要になってきます。
そのための家づくりの判断材料として、ぜひ取得してもらいたい等級です。
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